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顎の骨とお薬の関係

[2024.07.28]
歯科医師 亀澤亜季
 
突然ですが、このようなお薬を飲まれている方はいらっしゃいますか?
 
    • 骨粗鬆症治療薬のビスフォスフォローネート系とデノスマブ系(ARA)、抗スクレロスチン抗体製剤
    • 血管新生阻害薬アバスチン(乳癌の方によく用いられます)
    • 分子標的薬であるチロシンキナーゼ阻害薬、mTOR阻害薬
    • ステロイドのグルココルチコイド
    • 免疫抑制剤のメトトレキサート
    • 抗がん剤の殺細胞性悪性腫瘍薬
 
これらの薬には一つの共通点があります。
これら全ての薬は昨年2023年に発表された、薬剤性顎骨壊死(MRONJ)の原因になる可能性のあるお薬なのです。
 
お薬の副作用で顎の骨が壊死してしまうことは、実は20年以上前から報告されていました。
しかし、残念ながら未だその全容は掴めておらず、こうした問題に対してどう対処したらいいのかという明確な治療のガイドライン(エビデンスに基づいた治療方針)はありません。こうやって治療した方が良いのではないか、という統一見解(ポジションペーパー)を何年かに一度取りまとめている状態です。
昨年この薬剤性顎骨壊死のポジションペーパーが改定されたため、中本恵太郎先生の『一回聞いたら忘れないMRONJ』のセミナーを受講し新しい治療方針について学びました。
 
MRONJとは
MRONJとは、薬に影響で顎の骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐った状態になることをいいます。
2003年、骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネート製剤による顎骨壊死(BRONJ)に対する治療の方向性が発表されました。
その後、2007年BP剤だけでなく同じ骨粗鬆症の治療薬であるデノスマブによる顎骨壊死(DRONJ)が追加され、2016年この二つが原因で起こる顎骨壊死をARONJという名前に統一しました。
そして、昨年2023年に骨吸収抑制剤だけでなく、他にも抗がん剤やステロイドなどでも顎骨壊死が報告されるようになったので、薬剤性顎骨壊死(MRONJ)という名前がつけられ、治療や対処方法についてもいくつか変更が見られました。

 

なんでお薬で骨が壊死してしまうの?

骨粗鬆症のお薬の中で、ビスフォスフォネート製剤、デノスマブ製剤は吸収されるはずだった古い骨を再利用して使っていこう!というお薬です。
他の部分の骨はそれでもいいのですが、顎の骨はお口の中と交通している部分があるので、菌の影響で傷みやすく、そんな骨を再利用することになってしまった結果、壊死が起こってしまうと言われています。
それ以外の薬については、残念ながらまだなぜ骨壊死が起こるのかわかっていません。
 
健康寿命を伸ばすためのさまざまな薬物療法の試み
超高齢社会の日本では、健康寿命を伸ばすためにさまざまな取り組みがなされています。
骨折をして寝たきりになるのを予防するために骨粗鬆症のお薬を飲んでいる方、自己免疫疾患によりステロイドを服用している方、癌の治療で抗がん剤を服用されている方など、高齢になればなるほどお薬の数や量が増えて行きます。
特に女性の場合は閉経すると女性ホルモンであるエストロゲンが減る事で、4人に1人が骨粗鬆症にかかっているとも言われており、お薬を飲んでいる方も多いのではないでしょうか?
骨粗鬆症のお薬は骨粗鬆症により減ってしまった骨を強化し、健康寿命、生命予後を伸ばしてくれるとてもいいお薬です。
しかし、近年一つ大きな欠点が報告され始めています。それが骨粗鬆症で使用されるビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤による顎骨壊死の問題です。
 

骨が壊死するとどうなるの?

最初は痛みもなく無症状です。
歯茎にポチッと穴が空いてるかな?とかなんとなく硬いところがあるなあ程度の状態から、進行すると炎症をともなう骨露出、骨壊死になっていきます。
この段階になると、腫れたり痛みを伴ったり、場合によっては膿が出ることもあります。
そして、骨の露出が進み、死んでしまった脆い骨(腐骨)が増える事で骨折などを起こしてしまうようになります。
私たち歯科医院では、上のような症状がある方のなかで、BP製剤等該当の薬を飲んでいる人が、8週間にわたり骨の露出をみとめたうち、がんや放射線の照射歴がない場合にMRONJと診断します。
 

どうやって治すの?

以前は治らないと言われていましたが、今は治癒を目指すことができる病気だという認識に変わりました。
治療は大学病院などの高次医療施設で行われますが、基本的には壊死した骨を含む周囲の骨の切除が行われます。
 

じゃあ、お薬はやめた方がいいの?

以前は、歯を抜くような時はお薬を可能なら中断した方がいいと言われていましたが、今は中断した方がいいというエビデンスがなく、中断した時の全身的なリスクがあるため、お薬はやめずに治療を行って行った方がいいという見解です。
 

お薬を飲んでいても骨壊死しないためにはどうしたらいいの?

菌が入らなければ、骨壊死する確率はものすごく低くなります。なので、
 
  • 口の中をきれいに保つ
  • 根っこに膿のある歯(根尖病巣)をきちんと治す
  • 虫歯を早めに治す
  • 歯周病をちゃんと治療する
  • 抜かなければいけない歯は抜いて、口の中の菌の数を減らす

ことが必要です。

 
そして、これらは歯科の定期検診でいらっしゃる患者さん全員に対して行われている検査や処置になります。
骨粗鬆症の薬を飲み始めたときや、服薬を検討する時、整形外科や内科の先生から歯科でチェックしてもらってくださいと言われることが今は多くなってきたようで、当院にもご紹介でいらっしゃる患者さんが増えています。
そんな方は、ぜひ一回のチェックだけではなく継続して歯科医院での定期検診を受けてください。
それが今後の生活の質を保つことにつながります。
そして、骨壊死を起こす可能性のある薬はわかっていないだけでこれからも増えていくかもしれません。
お薬を飲み始めたら、歯医者に通いましょう!
 
出典
日本口腔外科学会
顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー
 
日本骨粗鬆症学会
骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン
 
歯科医師 亀澤亜季

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